ジャバ・ザ・ハットリ
Published on

仮想通貨のステーキング - 仕組み、お金の流れ、リスク

Authors
  • avatar
    ジャバ・ザ・ハットリ

仮想通貨のステーキングはパッと見た目は銀行の定期預金の利子のようなもの。1ヶ月とか3ヶ月とか一定の期間に仮想通貨を預けることで 13%、7%などの利子がつく。今の日本の銀行だと年で 0.001%とかギャグみたいな利子しかつかないのと比較すると遥かにいい。わりと低リスクで不労所得を得る方法になる。

そこで「なぜステーキングに利子がつくのか?」の仕組みを書いた。これを理解することはブロックチェーン技術を把握する上でかなり役に立つ。

image

納得できてないモノに手を出してはいけない

銀行に預けたお金に利子がつく仕組みはほとんどの人が把握しているだろう。銀行が預金者から集めたお金を企業に貸し出し、企業はその事業によりあげた利益から利子をつけて銀行に返済する。その利子の一部が小分けにして預金者にも返ってくる。ここまではほぼ一般常識。

じゃあ仮想通貨のステーキングになぜ利子がつくのか?その辺の中小企業のオッサンが銀行の窓口で「ちょっと ETH を貸してもらえまっか?後で利息つけて返しますし」なんてやってる訳ない。

ステーキングの利息はブロックチェーン技術の上で成り立っている。この技術をしっかり紐解けばその素晴らしさが実感できる。

とにかくよく納得できてないモノに手を出してはいけない。もしまだステーキングの仕組みの理解がいまいちなら、ぜひ以下の記事を読んでみてください。初心者の方でも納得いただけるように書きました。

もくじ

コンセンサスアルゴリズムで成り立つ分散化システム

image

ステーキングの前にコンセンサスアルゴリズムの理解が必要になる。(分かってる人は次の項目までとばしてください。)

中央集権化されたシステムの場合はその中央のシステムが情報の正当性を担保していた。銀行だと「A さんが**円を預金しました。これ嘘じゃないです」「B 社に**円を貸付ました。利息は*%です。これ正しいです」という感じで中央で管理していた。

それが分散化されたシステムになると P2P で取り引きされて、情報の正当性をチェックする仕組みが中央サーバーには無い。

その代わりとして各ノードで構成されるネットワーク自体に取引を評価、決定・管理するための仕組みを持っている。これがコンセンサスアルゴリズム。


Proof of Work(PoW)

ブロックチェーンの歴史はコンセンサスアルゴリズムとしてまず Proof of Work から始まった。代表的なのはビットコイン。

Proof of Work の正当性評価をするノードはよくマイナー(採掘者)と呼ばれる。マイナーは取引情報に任意の数値を加えてハッシュ値の計算(マイニングもしくは採掘)をする。この計算では、前のブロックのハッシュ値と 43 億通りの数値をハッシュ関数に入れ、特定条件を満たした値が出るまで行う。

image

その大当たりが出てマイニングに成功したマイナーは、生成したブロックにトランザクションを書き込むことができ、その際に報酬を受け取る。

こうしてマイナーがせっせと計算するから、みんなが正しい取引記録を継続することが可能になる。取引改ざんや二重支払いなどの不正が防止されているのはマイナー達のおかげ。

ただネットワークが大きくなるにつれて Proof of Work にはいくつかの問題が出てきた。

そのひとつはコンピュータパワーをたくさん必要とし、ムダになる電気代が無視できないぐらいに巨大化したこと。マイナーは今日もたくさんのコンピュータを使ってマイニングしているが、みごとに掘り当てて報酬を得るのはわずか。その他大多数のハズレの人達はただムダに電気を消費しただけになってしまっている。

image

この問題を解決するために考案されたのが次の Proof of Stake


Proof of Stake(PoS)

Proof of Stake はマイニングの難易度が通貨の保有量、もしくは通貨の保有年数に応じて決まってくる。つまり Proof of Work にあったような宝くじ的要素が取り除かれて「このマイニングはあなたに任せます」となり、ムダになる電気代が無くなる。

image

運営年数が経つと共に Proof of Stake 独自の問題も指摘されてきたが、少なくとも電気代の問題は解決されている。


ステーキングの利息の元手

ここから本題であるステーキングに関してになる。まずステーキングすれば誰でも利息を受け取ることになるが、その元手には以下の2つがある。

ステーキング報酬

内容は前項目のマイニングの報酬と同じ。PoS ノードがトランザクションを集めて、順番に並べること、正当性を評価し保証すること、その報酬をステーキングの側面から見て「ステーキング報酬」と言ったりする。

トランザクション費用

全ての取り引きには少額のトランザクション費用が含まれている。この費用の大小によりノードがブロックに入力するトランザクションの優先順位をつける働きをする。つまり多額のトランザクション費用を払って行なった取り引きをより優先的に先に処理する。ここで蓄積されたトランザクション費用も PoS ノードへの報酬となる。

image

これら2つの報酬がステーキングによってあなたが手にする利息の元になっている。


ステーキングを仕掛ける方法

ステーキングを仕掛けるには2つの方法がある。

  • バリデーション(正当性確認)
  • デリゲーション(権限移譲)

バリデーション(正当性確認)

バリデーションとは PoS ノードを管理して正当性確認を行うことで報酬を得る方法。これは誰でもできるのではなく、そのプラットフォームが提示する条件を満たす必要がある。

バリデーターとなるための条件例をいくつか挙げる

例1)あるレベル以上のネイティブコイン保持

バリデーションを行うにはそのプラットフォームが定めるレベル以上のネイティブコインを保持している必要がある。例えば Ethereum の場合は 32ETH 以上とか。(日本円だと約 1500 万円以上 - 2021 年 12 月時点)

例2)安定稼働サーバー

365 日 24 時間安定稼働するサーバーを持っていること。仮にバリデーションサーバーを落としてしまって、その際に抜けやノイズを入れてしまうとペナルティが発生する。

image

例3)技術者チーム

プラットフォームコアチームが認める技術者を揃えていること。「なにも分かってないけどやりたいです」では認めてもらえない。

これらはいくつもある条件のほんの一握りでしかない。とにかく個人がひょっこり入ってきてできるようなハードルでないことは確かだ。

デリゲーション(権限移譲)

個人にとってバリデーション権を得るのはかなりキビしいが、ほとんどの PoS プロトコルにはその解決策が用意されている。それがデリゲーションになる。

デリゲーションとはバリデーションノードとの間にあるスマートコントラクトによって、ネイティブコインをバリデーションノードに貸し出し、その貸し出した金額に応じて報酬を受け取る仕組み。

バリデーションノードにとっては保持するネイティブコインの金額が多くなればなるほど、より有利に正当性評価ができる。なのでいろんな人からコインを借りれば有利になる。もちろん貸す側もタダで貸す訳ではない。その成果として分け前をいただく。

image

本記事で言いたいことの全てはこの図 ↑ で示している

ここでは「約束したのに払ってくれない」とかは基本的に無い。(バリデーションノードにペナルティがあれば別)スマートコントラクトでプログラミング化されているので、あなたがデリゲーションに参加するにはただ仮想通貨を送って待つだけ。全てはオートマチックに実行される。


バリデーターの選び方

「あそこの取引所に1ヶ月預けたら 13%だ!高い!」と単に利率だけを気にしてるのは、この仕組みの片側だけしか見てないことになる。もう一方で必要なのはその預け先であるバリデーターの評価だ。

以下にどんな点でバリデーターを評価するべきかのポイントを書く。

アップタイム

バリデーターがどのぐらい安定稼働しているかのパーセンテージ。当然 100%に近いほどいい。

スラッシング履歴

スラッシングとはバリデーションの過程で間違いや抜けがあった際に課せられるペナルティのこと。これは無ければ無いほどいい。

ネットワークサポート期間

バリデータとしてそのネットワークに参加している期間。

運営チーム

多くのプラットフォーム公式サイトに「そのバリデータを運営しているチームの人達を調べておきましょう」と書いていることは示唆に富んでいて面白い。「どんな人達がやってんのか、Github とか Discord、Twitter のつぶやきとかで見て分かっといてね」と。全てはスマートコントラクトに従って人間の手を一切介さずに実行される。でもその裏で支えている人達のことを忘れてはいけない

image

ステーキングのリスク

流動性のリスク

全てのステーキングにはロックされる期間が決まっている。例えば「利息は 7%です。ただし1ヶ月間はあなたの仮想通貨を預かります。その期間は預かった仮想通貨を引き出すことはできません。どうしても引き出したい場合は利息無しでお返しします」という感じ。なので流動性のリスクが出てくる。ロックされている期間にいい投資先が見つかったとしても預けた仮想通貨を移動させにくい。

このロック期間の存在理由はバリデータにとっての保護の意味を持つ。ロック期間があることで次のタイミングのバリデーション資金量が読みやすくなって安定稼働が可能になる。またロック期間が無ければ悪意のある人がネットワークに攻撃をかけてわざとすぐに資金を抜く、なんてことも制御できる。

スラッシングのリスク

もしバリデーターが失敗してペナルティを受けてスラッシュされてしまえば、預けているあなたも利息をもらえなくなる。なので先の項目にあった、いいバリデーションノードを選ぶことが重要になる。


まとめ

この記事を書いた理由はステーキングの仕組みを日本語でググってもなかなか出てこなかったから。以前は日本の取引所でもコインチェックや bitFlyer でステーキングをやっていたが現在は停止している。2021 年 12 月現在ではザッと見たところ日本ではひとつしかやってない。ステーキングは主にBinanceFTXなどの海外取引所のサービスとなっている。

そんな理由もあってか、取引所のウェブサイトの説明では「ステーキングは銀行の利息みたいなモンです(おわり)」となってたり。こんな説明だけで納得できる人なんて居ないよ、と思ってしまった。

ブロックチェーンを支えているのは技術で、その技術理解こそが世の中を前進させる。暗号通貨のここ数年の景気の良さに引き寄せられて「よく分からないけど儲かりそうだからやる」なんて人が増えているようだ。多少は面倒くさくても仕組みぐらいは理解してからの方が今後に活きてくる。

そんなに難しいことでも無いし、Ethereum の公式サイトとか見ればしっかり書かれている。でも英語なのと情報の多さから少しとっつきにくいので、日本語でブログ記事にした。

ブロックチェーンという人類の叡智を結集した素晴らしい技術の理解が浸透すれば、世の中がいい方向へと導かれると確信している

今後もこんな情報発信をこのブログで続けていくつもり。有益な情報はブログとツイッターでどんどん発信するつもりなので、ぜひフォローしてください。

ジャバ・ザ・ハットリのツイッターアカウント

関連記事