ジャバ・ザ・ハットリ
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IT業界に「オレも苦労したんだからお前もガンバレ」なんて奴はいらん

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インターンの M はとても優秀なドイツ系ギリシャ人の大学生。M との協業の中で目が覚めるような体験をしたのでブログに書いた。それは一言で言ってしまえば「先輩の苦労の上にただ乗りしていくことの重要性」になる。

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もくじ

ありがとう、とだけ言えば Ok

M がとあるタスクを任命されて、それをこなす中であるインフラを構築する必要が出てきた。ちょっとしたことだったら自分でやってもいいんだけど、それはまーまーの規模だし、インフラを専門にしているインフラチームに手伝ってもらうことになった。

M がまず内容を説明して「こういうのを作って欲しい」と提案してそれがインフラチームに受け入れられた。1周間ほどでインフラチームから「できたよ」と完成したインフラを見せてもらった。

それは AWS に k8s でサラっと構築できる予定だったんだけど、構成要素がちょっと多くて M はその設定やらに手こずっていた。そこで M はもう一度インフラチームとのミーティングを設定してこう言った。

「作ってくれて、ありがとう。でもこのままでは私だけでなく、後続のエンジニア達も同じ設定が必要になるし、このままでは困る。とにかく設定は**と**だけにして欲しい。後はコマンド1発で全部が自動で出来上がるようにできないかな?というかそうしてもらわないとダメなんだ」と。

それは明らかにちょっと工数がかかる内容だった。

大学生の M と比較するとその時にミーティングに出ていたインフラチームのメンバーは全員がシニアクラスで実年齢も M よりひとまわりかそれ以上は年上の連中が4人だった。でも M はそんなことを気にする素振りもない。ただ正しいことを技術的に主張した。

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その後もいろいろ議論はあったが提案は受け入れられて、結局インフラチームがやり直すことになった。それでまた1週間ぐらいして M の希望通りのが出来上がった。その1週間の間に M は自分のアプリケーション側のコードを完成させていた。

最後にインターンの成果を発表する場で M は堂々とみんなの前でプレゼンして「みなさん見てください。このインフラはコマンド1発で立ち上がって、何度でもどこでも同じ環境が手に入りテストできるし、プロダクション環境にもデプロイできます。インフラチームのみなさんありがとう!」と発表して拍手を浴びていた。

その点についてはほぼインフラチームのシニアエンジニア達がひーこら働いたおかげだった。M はただその上に自分のアプリを乗せただけで、まるですごいことやったように見えた。

そこで思ったのは、それでいいのだ!と。技術的にまだ未熟であったり、その分野に詳しくなければ詳しい人が打ち立てた功績の上にどんどん乗っかって、自分の成果はそうした先人の功績の上の重ねなければいけない。重ねた方がいい、ではない。重ねなければいけない、のだ。

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天才達の功績があるからこそ

もし若い M がインフラチームのシニアエンジニア達に気を使って「みなさんに手伝っていただいてるので私も微力ながら、なにかインフラのお手伝いします」とかやってたらリリースは遅れただろう。

もうそこは「みんなありがとう!」の一言で済ませて自分は自分のアプリのコーディングに集中するべき。もちろん技術的にはしっかりコードの中身も確認した方がいいだろうし、私もよくそうしている。ここで言ってるのはそういう話ではない。M の先輩に頼んだ結果に対する考え方のことだ。

この世にある全てのアプリから工業製品に至るまで、どんな成果物も先人達の功績の上に成り立っている。電気の発明やアルゴリズムの発明など数々の歴史上の天才達の功績があるからこそ、私達はアプリが作れるのだ。ちょっとした k8s のコードにしても同じ。

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技術革新を遅らせてはいけない

昭和の学校であったようなクラブ活動のように先輩の苦労してきたことをそのまま後輩にもやらせる、みたいな文化があってはいけない。それは単にその人が苦労するだけではなく、組織全体、ひいては業界全体の技術革新を遅らせる。特に変化の速い IT 業界では常に最新技術をキャッチアップしていないと市場からも撤退させられる。

もしあなたがいる会社や組織でたったひとりでも「オレも新人のころは苦労したんだし、お前もこれを自力でやって苦労しろ」なんて言って自分が持ってるコードを渡さなかったりしたら、そんな会社はスグに辞めて転職した方がいい。そんな奴が一人でものさばっている組織はどうせロクなことがないし、遅かれ早かれ潰れるだろう。

実績や成果なんてモンは先人が打ち立てたモノの上にガンガン重ねなければいけない。

日本を離れて10年以上海外の IT スタートアップで働いている。働いてきた全ての会社が多国籍な人材で構成されていたので、あらゆる人種国籍のエンジニア達と働いてきた。そうした経験から日本人エンジニア達の技術が低い、なんてちっとも思えない。英語圏のエンジニア達と比較してもなんの遜色も無い。

それでも現実的には日本の IT エンジニアの給料は英語圏に比べてかなり低く、労働生産性も低い。

その原因のひとつは技術ではなく、そうした苦労を強要する文化。ムダに年齢だけで差別して先輩をたてたり、なんていうおかしな習慣が意外に影響しているのでは、と危惧している。

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前述の M には文化的な違いもあって東アジアにあるような「先輩をたてる」という儒教的文化は微塵も無い。どんなシニアエンジニアにもあっけらかんと「これやってよね!よろしく」って感じだ。そうして年齢、人種、国籍、性別に関係なく IT であれば技術的に正しいことをとことん遂行するべきなのだ。

とにかく若い人、これから新しいことに挑戦する人は先人の功績に感謝しつつ、それを最大限に利用するようにして欲しい。そうしないと技術が継承され発展しないからだ。

あなたにはしょうもない先輩のクソ苦労話に付き合ってるヒマはない。そんな奴は放っておいて、素晴らしい成果をもって世の中をいい方向へ変えて欲しい。


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