ジャバ・ザ・ハットリ

ベルリンのITスタートアップで働くソフトウェアエンジニア

テレビを観る人と観ない人との差は国や言語の違いよりも深いから、きっとあなたは知らない

2020-08-16海外スタートアップ事情

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「オレ今度テレビに出るからな!」ノックも無しに会議室に飛び込んできたCEOが満面の笑みでそう言った。

こっちは別の話してのにイキナリなんなんだよ、と思いながら、話を聞くとどうやらCEOはドイツでちょっと有名なニュース番組に出ることになった、と。

CEOは「すごいトラフィックが来るかもしれんから、準備しといてくれよ!」と言い残して、意気揚々と去って行った。

その時、会議室にいたのは全員がエンジニアでCEOが立ち去った後の反応の薄さに笑ってしまった。

「今どきテレビってwww」 「観ないでしょ、テレビなんか」 「そのテレビ番組なに?知ってる?」 「ていうか前にやったテレビCM、最悪だったね。」

エンジニア達は全員が外国人でそれぞれアメリカ人、ロシア人、ブラジル人、イタリア人、とリモートで繋いでるのがウクライナとトルコからだった。つまり全員がそのドイツの有名なテレビ番組を知らなかった。さらにエンジニアだしネット思考でそもそもテレビが家に無かったり、観なかったりといった連中。反応が薄くて当たり前だ。

これまでのキャンペーンも全部が大丈夫だったし、オートスケールもあるし。さらに半年ほど前にやったテレビCMの効果が最悪で「本当にCMは放送されてんの?」ってレベルのトラフィックしかなかった。放送日に監視しとけばいいし、これといった対策はいらんだろ、というのが結論だった。

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それでテレビ放送の当日。

どうせ何もないと思ってたのが、ちょうどCEOがテレビに出演した時間帯からエラーメッセージがばんばん飛んできて、トラフィックを確認すると「なんでそこに?」って場所に来てる。「あ、これはヤバいかも」と思った瞬間にマイクロサービスのひとつが落ちた。なんかいつもと動作が違うし、復旧にちょっと時間がかかって、だいたい10分ぐらいは落ちてた。

次の日にオフィスに行ったら、CEOがブチ切れてて、「せっかくオレがテレビでインタビューにナイスに応えてるのに、なんでサーバー10分も落としたんだよ!だいたい会議室でお前らに話した時からなんかおかしいって思ってたんだよ。『ドイツでは有名なテレビ番組だ』って言ったのにあんまり信用してなかっただろ。(私を指差して)だいたいお前あの時なんかちょっと顔が笑ってたし」

はい。その通りでした。テレビごときに小躍りして喜ぶCEOの姿がこっけいで顔から出てくる笑いが堪えきれなかった。

その後はエンジニア同士で話あって、なんでこうなったのかの分析をした。

結論はテレビが今までにまったく無かった客層を掘り起こしてしまった、と。

今の会社の主要サービスは一般消費者向け。マーケティング部が顧客属性を何回調査してもターゲットはいつも20から30代前半の若い人。都会に住むIT好き、ガジェット好き。ネットに繋がってないとサービスが成り立たない。1度だけテレビCMをやって効果測定をしたがかなり悪かった。ほぼ同じ広告映像をYouTubeにも流したが、そちらの方がすこぶる良かった。つまり広告などのキャンペーンはいつもネット上で行っていた。

ユーザー登録により、データベースに前述の顧客層のユーザーがたんまりと保存されている。

そこにあるタイミングでテレビで放映されるとあまりネットに触れてなかった客層、もしくはネット上のキャンペーンでは引っかからなかった客層を引き寄せることになった。

彼らの行動パターンや興味を引く商品群はこれまでの客層と明らかに異なる。サイト上のクリックする場所も閲覧方法も違う。これら予想外の出来事が重なって、それまで注力していなかった変な場所に負荷がかかり、対処しきれずサーバーがダウンしてしまった。つまりトラフィックの量というより質があまりにも異質だった。

この話を聞いて「そのぐらい事前に対策しとけば?」「ちょっとトラフィックが来て、いろんなユーザーに利用されただけで落ちるってショボいシステムだなー」と思われかもしれない。

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このサービスはヨーロッパ全土に展開していて、地域差もそれなりに読み込んでいる。会社にはデータサイエンスチームもあって、国や地域ごとに細かくユーザー特性を分析して最適な値段を割り出したりしている。

例えば同じデザインのウェブサイトに見えても、ベルリンでドイツ語で見るのと、パリからフランス語で見るのと、アムステルダムからオランダ語で見たのでは同じサービスのユーロの値段が微妙に違う。

各都市のユーザーの消費思考や商品のまわり方を計算した結果だからだ。じっくり分析すると同じヨーロッパといえども都市ごとにわりと違う。

そこまで都市ごとのユーザーの行動やらを分析していても、結局それらは全てネット思考の顧客層への分析でしかなかった。テレビを観ている人達というのはそんな分析を超えた予想外のユーザー層だったのだ。

「こんなことする客がたくさん居たの?!」って感じだ。

テレビでとても有名な人でもネットを観てる人達はあまり知らない。ネットで有名な人でもテレビを観てる人達は知らない。

テレビを観る人とネットを観る人は予想以上に分断されている。その分断は国境を越えた国と国との分断よりも、言語の違いがもたらす分断よりも、実は深い。

このブログを読んでいるあなたはきっとネットをよく観る人だろう。

するとあなたはきっと、同じ街に住んで同じ日本語を話すのだが、主にテレビを観る人達のことをあんまり分かってない。

その代わり、国も言語も人種も違う遠くの街に住むがネットを使う人の方がわりと共通点が多くて理解しやすい、なんてことになる。

この結論は直感に反するかもしれないし、「あんな見た目も言葉も違う人の方がアタシと近いってなんなの?」ってなるかもしれない。

でも国際的なチームで働く私は生まれも育ちも人種もまったく違うチームメンバーに対して、ネットが生活に密着してる人同士の共通した感覚ってわりとあるのを日々感じている。

それと同じ感覚をテレビが主な情報源の人に感じることは私にはできないだろう。

テレビとネットのどちらかが良くて、どちらかが悪い、なんて話ではない。ただ今の世の中は気づかないうちに深く分断されている、ということだ。

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