ジャバ・ザ・ハットリ
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世界の金融業界を震撼させたネット記事って最高の英語教材ちゃうか説

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    ジャバ・ザ・ハットリ

今の時代に1番イケてる英語を学ぶのならネット掲示板の文章になる。と言うと「え?ネットの掲示板に書かれた英語なんてゴミのような文章ばっかりでしょう」と思われたそこのあなたへ。

それは 90%ぐらい正しい。ほとんどはゴミ英語文章ばかり。しかし中には本当に素晴らしい文章が存在するのでこのブログで紹介する。

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もくじ

今世紀最大のショートバーン

これは Reddit という英語版の2ちゃんねるみたいなサイトに投稿されたある記事。このたったひとつの記事を契機として、ゲームストップ株事件を引き起こしウォール街はもちろん世界中の金融機関を震撼させた。

The REAL Greatest Short Burn of the Century

このネット記事が何百万ものネットユーザー達に支持され、彼らを株式市場に引き込んだ伝説的な記事。読むと引き込まれるし、これを英語の教材として考えながら読むとめちゃくちゃに参考になる。

書き出しはこんな感じだ。

Sup(What's up 調子どう?のくだけた略語) ギャンブラーのみんな、テスラ株の爆アガり列車に乗り遅れて落ち込んでる?大丈夫だよ。そんなのよりもっとスゴくて、最高にバカバカしいのがあるから。

ここのみんなでこっそり帝国軍に入ってデス・スターを乗っ取るんだ。武器は$GME(ゲームストップ株)だ。

私はこの冒頭の数行を読んで、なぜちょっとした Reddit 記事があんな大事件になったのかを感じることができた。この文章にはとにかく引き込ませる力がある。もちろんこの後にはリサーチに裏付けられた論拠が示されている。でも Reddit を読むようなネット民がそんな学者の論文みたいなのを好き好んで読む訳がない。

そこには論拠や事実の列挙だけではなく「読ませるなにか」が必要だからだ。この記事は誰でも無料で投稿できる気軽な文章というフリをしながら、じっくりと練られら構成とテクニックがあるのを感じる。

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必要となる前提知識

ゲームストップ事件や株取引の用語やらをひょっとしてご存知ない方にとっては不明な点があるかもしれないので、前提となる用語解説をした。

WBS

WSB とは r/wallstreetbets のことで主に個人株主たちが株式投資の情報を交換する Reddit コミュニティ。Reddit の中でもトップクラスに人気のコミュニティ。投資情報の交換と言えば聞こえがいいが実際には意味のないデマやポンジスキームを狙った煽り記事も多く含まれる場所。なのでここでは読者に「そうだ」と思わせるためのロジックが重要になる。

空売り

近い将来に株価が下落すると予想して賭けて利益を出す手法。現在の株価でいったん売りを出し、値下がりしたところで買い戻して借りた株を返す。この時の差額が利益となる。つまり通常はある会社の株価が上がることに賭けて株を買うが、空売りはその逆。「この会社の業績は悪いし、株価が下がることに賭けるぜ!」とやること。

例としてかつてトイザらスが倒産に追い込まれる直前に多くのファンド会社がトイザらス社に対して多額のショートポジション(空売りをかけること)を取り、本当に株価が急落してかなりの利益を得た。

「人の不幸につけこんで儲けるファンド会社」「市場に利益をもたらさず、自分だけが儲ける行為」などの批判もある。

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ショートスクイーズ

ショートにより株価が急騰する現象の一つ。ショートポジションをとっていたのが、大量の買い戻し(ショートポジションを解消すること)が発生すると一時的に株価の買いが出ている現象になる。その結果、株価の異常な高騰をまねく現象。

ショートポジションの欠点として予想に反して株価が上がった際に損失が発生すること。通常、株価が下がることにはゼロという限界があるが、上がる方向には限界がない。どこまでも上がる株価に対してショートポジションを取ると巨額の損失になる。上がっていく株価を見て、損失に耐えきれなくなったファンド会社が買い戻しをする。その際には大量の買いが発生し、ショートスクイーズは異様な株価高騰現象になる。

ゲームストップ

アメリカにある老舗のゲームソフトを売る会社。かつてゲームソフトは物理的なパッケージを通して、各地に展開するゲームストップの店舗にて販売されていた。ゲームのダウンロード販売が主流になり、業績が悪化していた。アメリカ人にとっては 80-90 年代の古き良きゲーム文化を思い起こさせるお店でもある。

ロビンフッド

株式の売買をかんたんに行うことができるアプリ。このアプリにより手数料無料でかつ少額からネット上での株の売買を可能にした。

ゲームストップ株事件

「幼き頃に愛したゲームストップがファンド会社のショートポジションにより潰されそうになっている。みんなで救おう!」と結託した Reddit の読者達がロビンフッドを使った少額株投資に参加し、最初は小さな現象だったはずがバイラルを起こして相当数の株購入を引き起こした。異様な株価の高騰を招き、多数のファンド会社を倒産に追い込んだ事件。ファンド会社の損失額は数ビリオンドルと言われる。

事件が起きたのは1年前のことであり、今さらにゲームストップ株を通じて利益を得る人も損害を被る人も居ない、と考えてブログに書いた。このブログ記事ではあくまで金融としてではなく、英語教材としての側面だけを強調する。ゲームストップ株をすすめたり、投資アドバイスをする意図は一切無い。

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記事の意訳

やあギャンブラーのみんな、テスラ株の爆アガり列車に乗り遅れて落ち込んでる?大丈夫だよ。そんなのよりもっとスゴくて、最高にバカバカしいのがあるから。

ここのみんなでこっそり帝国軍に入ってデス・スターを乗っ取るんだ。武器は$GME(ゲームストップ株)だ。

はぁ?ゲームストップってゴミ株じゃないのって?いや違う。理由は後で説明する。もし仮に本当にゴミ株だったとしてもここではあまり関係ないんだ。

ほとんどのショートスクイーズは計算式的に起こるだけ。でも今回のショートスクイーズは特別。計算式にプラスしてそれを裏付けるニュースがある。まずハッキリさせたい。今回のショートスクイーズはみんなが参加しようとしまいと起こる。でもボクとしてはここのみんなが参加して歴史を一緒に作りたいと思ってるんだ。

ショート率

ゲームストップ株の今のショート率は 85% - 99.8%。 通常だと 20%もあればそれはかなり高いパーセンテージになる。テスラやネットフリックスのショート率の歴代最高値は 30-40%だ。でもゲームストップ株の実際のショート率は 110%だ。ボクの気が狂ってるって思うのなら以下を見て欲しい。

Shares Outstanding (June 2) = 64.8M

Insider Shares (June 30) = 8.9M

Total = Public Float = SO - IS = 55.8 M

Ryan Cohen Shares (8/31) = 6.2M

Total = Adjusted Public Float - Ryan Cohen = 49.6M


Shares Shorted (9/2) = 55.7M


% Shorted (Total Shares) = 86%

% Shorted (Float) = 99.8%

% Shorted (Adj. Float) = 112.3%

意訳はここまで。翻訳が苦手なのでこの辺で力尽きた。そもそも日本語に訳したところで元の文章が持つパワーがそこまで再現できていないし、まず目的が私なんかの意訳を読んでもらうことなんかでは決して無い。

この文章のよくできたところは細部に宿っている。なので興味を持っていただけたのなら、ぜひリンクをクリックして原文を読んでください。

以下になぜこの記事がそんなに素晴らしいのかの理由を書く。

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最初の3行が勝負

次から次にクリックひとつでページからページへ飛んでしまうネット民の心を掴むのは容易ではない。最初の数行がつまらなければ、すぐ次の記事へ行くし、動画を観にいく、他のサイトへ飛んでしまう。現代において 200 字以上の文章を読ませることの大変さは誰もが知るところ。

その点でこの記事のイントロは読者の心をグッと掴んでくる。スラングの使い方やスター・ウォーズ用語の出し方が素晴らしい。これらから読者層がぴったりと限定されてくる。「帝国軍に入ってデス・スターを乗っ取る」なんて表現から、想定されている読者がウォール街に勤めているエリート金融マンでないことはスグに分かる。ヤツらへの記事ではなく、オレ達に宛てられた記事だ、と。


事実をベースにした分析

イントロで惹きつけた後は分析になる。この記事の分析は畳み掛けるように次から次に事実ベースの論拠を示してくる。そこにエンターテイメント性があって楽しい。通常は金融記事なんかに面白いモノなんてない。これは違う。記事の作者がリサーチを重ねて発見したニュースと分析を紐解いていく過程がとにかく楽しい。

「おい!オレの説明を聞け。A = B=C だから」とたらたら事実だけを説明されたらつまらないのは当然だ。そこを盛り上げてくれるのは発見であり、読者に「おお!そうだったのか」と思わせるなにか、だろう。

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現代の英語の教科書

おそらく私のような人間が「現代のもっともいい英語文章は Reddit にある」なんて言ったら全国の英語の先生が烈火のごとく怒り出すだろう。そこで言いたいのは英語を勉強する目的から逆算してみると、どうなるか、だ。

あなたはなぜどこでなんのために英語を使う場面を想定して英語を勉強しているのか?、と。

そうすると多くの場合においてネット上で文章を読む、書く機会がかなりを占めるだろう。仕事で英語を使う場合においても公式なドキュメント形式で書くよりも Slack やチャットツールで絵文字の入ったメッセージを送る機会の方が断然に多い。私もメールでかちっとした英語の文章を書く機会がかなり減った。確かにちゃんとしたドキュメントに書く英語もできた方がいいし、英会話もできた方がいい。しかし相対的にチャットで軽くメッセージをやり取りする機会の方が多いことは確かだ。

とにかく現代において生きた英語のほとんどはネット上に存在する。

ネット上に投稿されたネット用語混じりの英語文章がしっかり読める、文脈が理解できる、そこに自分で英語を書き込み読者の賛同を得ることができる、というのは現代の英語の使い手としてとても重要なスキルのはずだ。そんな重要なスキルを無視してしまっては英語学習の意味が半減してしまうだろう。

実は現代においてゴミと思われがちなネット文章はもっと見直されて、むしろ積極的に学習の材料として利用されるべきなのだ。確かにネット上の文章にゴミは多い。しかしそれだってゴミの中から「おお!これはすごい!」というのを見つけ出すスキルだって重要なのだ。

もしあなたが英語圏で育ったネイティブスピーカーならこんなことは気にするまでもない。ネット上の英語の書き方なんて自然と使っているだけで身に付く。しかし非ネイティブは意識的に学習しなければそんなスキルは付いてこない。多くの日本の英語の先生は教科書の勉強に始終して、Reddit やネット英語の文脈が本当には理解できないのでは?と危惧している。

高貴な方たちがシェークスピアの文章を使ってお勉強されるのもいいが、たまには Reddit を見直してみるのもいいですよ、が伝えたくてブログ書きました。

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