ジャバ・ザ・ハットリ
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書評『年収は「住むところ」で決まる 』はこれからの住まい選びに参考にするべき1冊

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『年収は「住むところ」で決まる 』(著:エンリコ モレッティ)を読んだ。これは特に海外転職において「住むところ」選びをする際に、ぜひとも参考にすべき1冊だった。

タイトルにある「年収」について本書ではそこまで言及されていない。単にキャッチーなタイトルを付けただけで、本書の内容を端的に言い表しているのは副題の方。その副題が「雇用とイノベーションの都市経済学」。多くの資料とデータを使って都市経済の移り変わりを説明している。それらは「誰もが知っているけど、その理由がいまいちうまく説明できないこと」だ。

例えば「シリコンバレーは IT 産業のメッカのひとつであり、数多くの IT 企業がそこに集積していること」これは誰もが知っている事実ではあるが、なぜ特定の地域に同種の業態の会社や人材が集まっているのか、を論理的に説明するのは難しい。

IT 産業といえば最もリモートワークに適して産業であり、ソフトウェアエンジニアにいたってはネットさえ繋がればどんな田舎でも働くことが可能だ。実際にそうした働き方を実践している人もいるが、都市単位で見た時にはそれとまったく逆のことが起きている。シリコンバレーやベルリンなどの IT 都市に多くの IT エンジニアたちが惹きつけられ、人がさらに人を呼びその集積化がより一層高まっている。
これと逆に今までアメリカ国内にあったが国外に流出しているのは工場など。誰もが知るように iPhone は Designed by Apple in California であって、それを作っている工場は中国だから Made in China だ。アメリカやシリコンバレーでは工場で働いていた人の雇用は失われ、その代わりにソフトウェアエンジニアリングやデザインなどの高度人材に対する需要がずっと高まっている。

興味深いのは工場などの生産部門は比較的容易に場所の移転が可能だがイノベーションに関わる部門はほぼ移転が不可能ということ。孤立した環境では革新的なアイデアの実装が不可能であり、そのためにはその企業だけでなく都市単位でのエコシステムが重要になってくる。

都市で働く人材は同じような人材とのつながりを持ち互いの所得を高めてしまう。つまりクリエティブな人達に囲まれていると、自分自身もよりクリエティブになり、生産性が上がる。ハーバード大学は同医学部の研究者たちが発表した医学論文をすべて洗い出し、共同執筆者たちの研究室の間の距離を調べたところ、それが 1 キロ未満だと、質の高い論文が書かれている傾向にあることが分かった。

またある都市でイノベーション産業の新たな雇用が1つ生まれると、それ以外の業種の雇用が5つ作り出されている。科学者やソフトウェアエンジニアの雇用が増えれば、タクシー運転手、家政婦、ベビーシッター、美容師、医師、弁護士、犬の散歩人、心理療法士など地域のサービス業に対するニーズが高まるからだ、と。

こうして発展する都市はどんどん加速度を高めて発展し、衰退する所はどんどん人材が流出して衰退してしまう。統計上アメリカの都市間の格差はずっと広がっており、格差が収まる気配は一切無い。

住む場所と職場を変えることがどれほど人生に影響するか、に関して私も身をもって実感している。日本 → シンガポール → ベルリンへと家族と共に移住を繰り返し、周りの影響を受けて生活が激変し続けている。住む場所や住む国は惰性で決めてしまいがちだが、それはもろに生活に直撃する。

シンガポールから次の移住先を探す際に資料をよく読んで都市ごとの統計を比較した。その時は本書を読む前だったのでベルリンが IT 都市として抜き出てきていることと、IT 投資額がやけに高いな、と思っただけだった。
ただこうして本書を読んだ後、IT エンジニアとしてのキャリアを考えた際に住むところ選びはとてもとても重要だっだのだな、と思った。

人間は傲慢なので自分の給料が上がった時に「給料が上がった理由?そりゃあ俺様が仕事をがんばったからに決まってるだろ」と思いたい。しかし実際には都市単位で考えて「あなたのがんばりよりも都市の機能として、あんたの住んでいる都市全体の給料が上がる仕組みがあって、そこにたまたま乗ってただけなんですよ」となっている可能性が高い。

「広がってしまった都市と地方の経済格差を埋めなければならない」という、地域格差是正論がある。しかしなぜ地域格差是正しなければならないのか、という疑問に対して誰もが納得できる答えを持っている人は居ない。本書ではただ淡々と事実をもとにその格差の原因を突き止めている。地域格差は歴然とあってそれは今後さらに広がり続ける。

個人的には国境をまたいで様々な国への移住を繰り返すスタイルが好きだが、そんなことを誰かに強要しようなんて思う訳がないし、生まれ故郷を離れずにずっとそこで暮らし続ける人生を否定することもない。どこに住むかはその人次第だが、その「住むとこ」選びにとても参考になる1冊となった。

ということで自身としてはこれからも最先端の IT 都市に住み続けたいなー、と思った次第。

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