ジャバ・ザ・ハットリ
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シンガポールで営業マンからセールスを受けて考えた、ゆるくも高い生産性の労働環境

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ある技術製品の導入にあたって販売会社からのセールスを受けたのだが、そこで日本とシンガポールの労働環境とそこからくる生産性の違いについて考えさせられた。

シンガポールに来てから、セールスを受ける機会があれば、積極的にミーティングに参加するようにしている。いい営業マンのセールストークはとても英語の勉強になるからだ。

外国人が日本語の勉強をする際にジャパネットたかたのたかた社長の話し方から勉強するところを想像していただければお分かりいただけるだろう。要は英語の勉強にバッチリなのだ。売ってナンボのセールストークは発音が明瞭で内容も分かりやすく、なにより客の心をグッと掴む話術が要求される。洗練されたセールストークはとても高度な話し方なのだ。面白くもなんともない教科書のリスニング教材なんかよりよほどいい。

ミーティングに来た営業マンは映画ジュラシック・パークに出ていた数学教授みたいな長身イケメン男だった。

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こちらからはエンジニアが2名と PM が1名参加した。

そのイケメン数学教授(実際の職業は技術セールス)が少し早口の英語でスラスラと自社製品の優れた部分を説明した。時々、入れてくるジョークもいい感じだった。マネしたい英語のフレーズをたくさん聞いた。おそらく彼はかなり売っているだろうことは容易に想像できた。

セールスも佳境に入って、値段交渉と最終質問になった時に私から単純な質問をした。「うちはサンフランシスコとロンドン、ホーチミンにもオフィスがあるんだけど、そこのエンジニア達もこれ使えるよね?」だった。

で、そのイケメン数学教授はちょっと考えて、爽やかな笑顔と共にこう言ったのだ。
「きっと使えると思うんだけど、電圧とか違うし詳細は分かんねーな。きっとウチの技術部隊に聞いてみれば分かるよ。でもそうやって聞くのは、これ買った後でもいいかい?」

全体的に営業マンとしてオフィスに入ってきた時からの立ち居振る舞いやしゃべり方が日本の営業マンとは全然違った。自然といえば自然なのだが、ごく普通で「神様であるお客様に買っていただく」的発想がゼロだった。

私が知る日本の営業マンがその製品に対する質問を受け、もしその場で答えられない場合はこう言うはずだ。
「申し訳ございません。今この場ではお答えできかねますので、いったん社内に持ち帰り技術部と確認の上、改めて回答させていただきます!」と。

ところがこちらのイケメン数学教授はキラリと光る歯を見せて「アンタが買って、その後に答えるってことでいいかい?」と、なんかまるで自分がいい提案でもしたかのように言ってのけるのだ。

だいたいにおいてこちらではモノを買う人と売る人の関係は常に対等だ。売る側はヘタに媚びへつらったりしないし、売りたければ売るというごく自然な態度だ。

日本であったように、なんでもキッチリと遂行して客から受けた全ての質問に社内へ持ち帰ってスキ無く答えるのは優れているようにも思えるが、それでは本当の生産性はあがらない。客の質問に答えることが悪いという訳ではない。全てに答えるのことが生産性に直結しないのだ。日本の労働者の労働生産性が先進 7 カ国で 20 年連続で最下位というデータがある今、そろそろ労働について考え直す時が来ているのではないだろうか。

営業に限らずシンガポールにおける仕事ぶりはスピードを上げてガーっとやるところと手を抜くところのメリハリをハッキリさせている。高速道路と一般道を使い分ける感じだ。ところが日本のサービスにはそうした使い分けを感じない。

日本のおもてなしの心でとても高品質なサービスを享受できるのはいいことだが、それを支えているのはサービス残業を省みずに疲弊しながら提供している労働者達だ。本当に顧客の求めに応じているのならまだいいが、中には「そこまでして欲しいって言ってない」というレベルにまで提供してしまっている、効率の悪さが目につく。

日本にも「お客様は神様です」的な発想が一切無く、前述のイケメン数学教授みたいに「ヘイ、ヨー」の出だしと共に

「買った後で教えてやるよ。どうだい?」と軽く言ってしまう営業マンが

登場していもいいのではないだろうか、と思った次第。

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